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あなたへの社会構成主義 [著]ケネス・J・ガーゲン

[評者]苅谷剛彦(英オックスフォード大学教授)

[掲載]2005年01月16日

[ジャンル]人文

表紙画像

■社会的問題の解決、関係や対話を糸口に
 
 地球には重力がある。この一見疑う余地のない科学的「事実」も、「地球」や「重力」や「ある」という言葉の意味の了解によって成り立っている。つまり、私たちが共通の意味を理解し合う関係を作り上げていることが、この言明を事実と見なす大前提である。
 このように、ものごとを徹底的に、意味を作り出し了解し合う人と人との「関係」を通してみようとする見方、それが社会構成主義だ。そこでは、「真理」も「善」も「正義」も「合理性」も、すべて言葉を介して社会的に構成されるものだとの見方が貫かれる。
 この見方のどこがよいのか。唯一絶対の「正しさ」が疑われる現代。さまざまな難問を考える上での手がかりを与えてくれるところに強みがある。宗教間・民族間の対立も、男と女、健常者と障害者といったマジョリティーとマイノリティーとの関係の場合も、そこに横たわる問題の解決に、たった一つの正解はない。そこには正しさ自体をめぐるとらえ方の違いが、抜き差しならない形で入り込んでいる。
 こういう時代には、正しさの競い合いではなく、多様な声に耳を傾け、正しさについて対話を続け、新たな了解を作り出していくこと、著者のいう「対話」が求められる。唯一絶対の正しさに縛られずに、なおかつ、互いに意味づけ、理解し合う関係をどうやって作り直すか。本書を通じて、社会構成主義の基礎知識とともに、生活場面でそれをどう実践すればよいのかを学ぶことができる。相対主義と同じではないかとか、懐疑主義に陥るだけだといった批判や疑問にも答えてくれる。かゆいところに手が届く社会構成主義の入門書なのである。
 だが、どこか腑(ふ)に落ちない感覚も残る。本当にそれでうまくいくの?
 読者がこういう疑問を抱いたとすれば、ガーゲンはきっとほくそ笑むに違いない。疑問に発するこうした「対話」を開き、促すことに、社会構成主義の可能性をみるからだ。とことん納得できたと思わせない読後感。そこに、本書の魅力がある。
 評者・苅谷剛彦(東京大学教授=教育社会学)
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 東村知子訳、ナカニシヤ出版・367ページ・3675円/Kenneth J.Gergen 米国スワースモア大学心理学部教授。

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