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別世界・幽霊を呼ぶ少女 [著]楳図かずお 

[評者]中条省平(学習院大学教授)

[掲載]2006年10月22日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■哲学的深さも天才漫画家の出発点

 いつ見ても少年のように若々しい楳図かずおだが、今年で70歳になった。1995年に完結した20巻の大作『14歳』をもって「最後の作品」と本人が宣言しているので、新作はもう読めない。
 だが、21世紀に入ってレアな作品の復刻が相次いでいる。本書はとくに貴重な1冊だ。楳図がオリジナルストーリーに基づいて単独で描いた長編第1作『別世界』が収録されているからだ。このマンガを楳図は17歳のときに描きあげた。真の天才である。
 舞台は原始時代。人間は様々な部族に分かれて争っている。その部族間闘争を生きぬいて人類の救済に向かうリバー少年の冒険物語だ。
 主題の一つは人類の滅亡である。物語の初めでリバーは奇妙な岩に立って空を見上げている。彼は気づかないが、読者にはその岩がガイコツの形であることが見えている。つまり、映画『猿の惑星』のラストの自由の女神のように、この岩はすでに一度人類が滅びたことの痕跡なのだ。
 『14歳』の結末近くでも、人間の滅亡後、ゴキブリがガイコツの上に立って、人間の再生を予言する。ガイコツ岩は楳図かずおのなかで40年間も持続した人類の滅亡と再生のシンボルなのである。
 また、『別世界』で、生き延びた人類が火星人の子孫であると示唆される件も興味深い。火星人の目から見れば、地球こそ「別世界」なのだ。他者の存在につねに想像力を開き、別世界をけっして拒否しない寛大なまなざしこそ、楳図マンガの哲学的深さを保証するものである。
 『別世界』の冒頭に夕やけが現れていることも感動的だ。楳図の最高傑作『わたしは真悟』も、最終作『14歳』も世界を覆う夕やけで始まるからだ。夕やけは世界を焼きつくす滅亡の光景であると同時に、浄化の炎による再生の可能性のイメージでもある。
 本書に収録された『幽霊を呼ぶ少女』は四谷怪談をベースにした恐怖マンガだが、冒頭に見開きカラー2ページで描かれる夕やけの輝かしさはマンガ史に比類がない。この本をカラー復刻してくれた編集者に心から感謝したい。
 評・中条省平(学習院大学教授)
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 小学館クリエイティブ発行、小学館発売・3780円/うめず・かずお 36年生まれ。漫画家。

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