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男の絆―明治の学生からボーイズ・ラブまで [著]前川直哉

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2011年07月31日

[ジャンル]人文

表紙画像

 本書の冒頭はAKB48と男性アイドルグループの不思議な違いから始まる。AKBのほうは仲間で下着姿になったりキスしたりしあうのに、男性グループではそれを見せない。その理由は「同性愛」とみなされる危険を排除するためという。たしかに評者も、『三国志』の冒頭に、義兄弟の契りを結んだ劉備、張飛、関羽の3人が夜も寝台を共にしたとあるのを読んで、妙に興奮した覚えがある。
 明治政府が法律で禁止した男色の実情は、森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』に詳しい。江戸以来、男色は高齢者が年少者を意のままにする行為であって、「受け身」役が「少年」と呼ばれたように先輩・後輩の関係にあった。いわば武家社会の反映であり、江戸も後期になると流行(はや)らなくなった。ところが明治に入り、学生間で硬派と軟派の対立がおこる。軟派学生は性欲の処理に遊郭通いするが、硬派のほうは、先輩に体を許すが智(ち)や志なども学べる男色に走った。福沢諭吉はそれを理論化し、交際の仕方を「肉交」と「情交」に分け、長く継続する情交を学生に推奨した結果、男女交際すら「やったかやってないか」が重大視されるようになるのだ。
 20世紀は女学生激増に伴い、情交が結婚に結び付く「恋愛」を生む一方、肉交のほうも軟派側に男同士の「同性愛」を広げていった。そこで硬派は、軟派と混同されないよう精神的な結合を強調する「男社会」を作り上げた。
 本書の後半は、女性と同性愛者を排除する「男子校」的日本への批判となる。
 それでも、男社会で「下ネタ」を好んで話す風潮が同性愛者でない証明をするためだとか、高校の野球部の男くささに萌(も)えてしまう女子生徒が存在する現象や、草食系男子にイケメン男子といった「女性が妄想する男組」の出現など具体例が興味ぶかく、現代編も「男の絆」事情に専念してほしいほどだった。
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 筑摩書房双書Zero・1680円/まえかわ・なおや 77年生まれ。灘高教諭。共著に『「育つ・学ぶ」の社会史』。

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