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「だれか来ている―小さな声の美術論」書評 小宇宙のようなエッセー

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2011年08月28日
だれか来ている 小さな声の美術論 著者:杉本 秀太郎 出版社:青草書房 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784903735177
発売⽇:
サイズ: 20cm/241p

だれか来ている―小さな声の美術論 [著]杉本秀太郎

 その一つ一つが完結した小宇宙のような40余のエッセーで編まれている。
 それぞれの空には、中国・後漢時代の墳墓からの出土品、江戸の赤楽茶わん、上村松園の日本画から、中世フランスのタピスリー、ベックリン、レンブラント、ゴーギャンらの絵画などが、星として輝く。フランス文学、日本の古典文学、俳句から本草学などの多彩な雲に彩られながら。
 多岐に富む素材は、様々な媒体に書き、また講演したものを集めた、という成り立ちに由縁する。往々にして、この種の短文集は、雑駁(ざっぱく)な読後感に陥りがちだが、それがない。古今東西の芸術に通じた著者の動かぬ審美眼が持つ引力。その強さゆえだろう。(青草書房・2520円)