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米国製エリートは本当にすごいのか? [著]佐々木紀彦

[評者]植田和男(東京大学教授)

[掲載]2011年08月28日

[ジャンル]教育 国際

表紙画像

■優秀な人 育て上げるシステム

 本当のエリートがどこにいるのか分からなくなってしまった最近の日本では、飛びつきたくなるようなタイトルの本である。本書はスタンフォード大学への留学経験に基づいて、著者が幅広い観点からエリートの国際比較を試みたものである。やはり米国のエリートは優秀だが、米国人の能力が格段に優れているからではなく、米国にある程度以上の能力を持った人を立派な知的エリートに育て上げるシステムがあるからだという。
 そのポイントは大学における教育にあり、大量のインプットを学生に与え、プレゼンの仕方も含めて徹底的に鍛え上げる。評者の経験でも米国の大学、大学院の授業は日本に比べて格段に体系的で、そこを通過することによって学生はその分野の専門家になることができる。学生も必死に勉強する。エリートの重要性は痛いほど認識されていて、優秀な学生には先生がお世辞を言ってまで自信をつけ一人前に育てようとする。ただ、こうしたシステムの成功の結果、世界中から米国に優秀な人が集まっていることも否定できないだろう。
 分析はエリートの「必修科目」にも及び、それは経済学、歴史、国際政治だという。同感である。労働市場のあり方の日米比較分析も紹介され、一つの仕事を離れても容易に別の仕事を見つけられる環境があるからこそ、米国人はベンチャーに行くようなリスクを取れるという。国際比較は日米だけでなく、中国や韓国も含み、金が先か権力が先かという点の米中比較、韓国留学生の活躍の裏にある国内機会の狭さの指摘など興味深い。
 読者は必ずしも著者の主張のすべてに賛成するわけではないだろう。しかし、もはや国民の平均のレベルの高さという長所だけでは国際競争に勝ち残れなくなりつつある日本にとって、本書を材料にしてエリートについて様々な思いを巡らしてみることは有益だろう。
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 東洋経済新報社・1575円/ささき・のりひこ 79年生まれ。「週刊東洋経済」記者。休職して留学後、09年復職。

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