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斎藤環 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2011年12月25日

表紙画像

(1)ツナミの小形而上学(ジャン・ピエール・デュピュイ著、嶋崎正樹訳、岩波書店・1995円)
(2)ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(ジョナサン・サフラン・フォア著、近藤隆文訳、NHK出版・2415円)
(3)すべて真夜中の恋人たち(川上未映子著、講談社・1680円)
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 (1)は震災後の手探りのような読書の中で繰り返し参照した本。システムの暴力をもたらす「思慮の欠如」を回避すべく著者が提唱するのは、予想される破滅を運命のように扱う「覚醒した破局論」だ。
 (2)は9・11のテロで最愛の父親を亡くした少年・オスカーの“冒険”を描く。遺品の中に見つけた謎の鍵にぴったりの鍵穴は、果たして見つかるのか。人々との出会いの中で“自分の言葉”を取り戻していく少年は、震災後の私たち自身でもある。
 (3)は著者初の長編恋愛小説。強いキャラでも美人でもない“特性のない女”、入江冬子。このヒロインの造形は画期的だ。彼女に普通の恋愛をさせようとする著者の苦労はいかばかりであったか。ラストの小さなどんでん返しに至るまで、「弱さ」に向けられた真摯(しんし)な視線に圧倒される。
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 斎藤環(精神科医)

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