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逢坂剛 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2011年12月25日

表紙画像

(1)紅梅(津村節子著、文芸春秋・1200円)
(2)蠅の帝国(帚木蓬生著、新潮社・1890円)
(3)ナチを欺いた死体(ベン・マッキンタイアー著、小林朋則訳、中央公論新社・2625円)
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 (1)は、作家吉村昭の凄絶(せいぜつ)な闘病を夫人の津村節子が切々と描いて、間然するところがない。事実を客観視し、小説化するまでの著者の苦闘に、胸を打たれる。書かれた夫吉村も、さぞや本望だろうと思う。
 (2)は、続編の『蛍の航跡』と並んで、太平洋戦争の知られざる一面を描く、貴重な〈証言小説〉である。帚木蓬生は、全編を通じて個々の軍医になりきり、戦争の悲惨さを訴える。声高でないだけに、事実にいっそうの重みが加わり、その迫力に圧倒される。
 (3)は、近年出版された第2次大戦秘話の中で、もっともセンセーショナルな作品。スパイ小説顔負けの、奇想天外な英国情報部による謀略作戦に、思わず手を打ちたくなる快作。各国の関係史料を調べ尽くした、緻密(ちみつ)なノンフィクションだ。
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 逢坂剛(作家)

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