書評・最新書評

奥泉光 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2011年12月25日

表紙画像

(1)月下推敲 谷川浩司詰将棋作品集(谷川浩司著、毎日コミュニケーションズ・2100円)
(2)天空の沈黙 音楽とは何か(ヴァレリー・アファナシエフ著、田村恵子訳、未知谷・3150円)
(3)葦舟、飛んだ(津島佑子著、毎日新聞社・2100円)
    ◇
 三代伊藤宗看『将棋無双』など、江戸時代中期には名人が詰将棋を将軍に献上する習慣があったと聞くが、(1)は久しぶりに出た十七世名人による詰将棋集。将棋を知らない人には意味が分からず、将棋を知っている人でもここに並んだ作品を自力で解ける人は数多くないだろう(私は一つも解けない)。けれども、こうしたものは存在すること自体に意義があるので、ひとつの伝統の精華として貴重である。紙面からは彫琢(ちょうたく)された芸道の気品が匂い立つ。
 (2)はピアニストである著者の、音楽をめぐるエッセー集。まさにエッセーの名にふさわしい、幅広い知識と知的なセンスに溢(あふ)れた好著である。
 今年出て読んだ小説のなかでは、戦争の時代の記憶を扱いながら、多声的な「かたり」を巧みに構成した(3)が最も印象に残った。
    ◇
 奥泉光(作家・近畿大学教授)

関連記事

ページトップへ戻る