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田中貴子 書評委員お薦め「今年の3点」

[評者]今年の3点(書評委員)

[掲載]2011年12月25日

表紙画像

(1)古典基礎語辞典(大野晋編、角川学芸出版・6825円)
(2)中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド(ジル・ケペル著、池内恵訳、講談社選書メチエ・1680円)
(3)不可能(松浦寿輝著、講談社・1890円)
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 (1)は、「つれづれ」「あはれ」などのよく知られた古典語を再考し、意味を詳細に記述した労作。内容は「引く」より「読む」のがふさわしい重厚さ。編者が追究してきたタミル語が併記された項目があるのが特徴で、その学者魂は松本清張に伝記を書いてもらいたいほどである。
 (2)は、9・11以後の中東の国々を旅したフランス人学者の手記。池内氏の注と解説が実に丁寧で、中東に心理的な遠さを感じるほとんどの日本人にとってまたとない入門書である。
 (3)は、市ケ谷事件の亡霊として生き延びた老人「平岡」の奇妙な日常を綴(つづ)る。物語が進むにつれ時間や空間がぐんにゃり歪(ゆが)み、現実と幻想とが境界を失って行く感覚に酔う。キャベツがセーターを着た表紙写真も、生の空疎さを表して素敵。
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 田中貴子(甲南大学教授)

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