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流燈記 [著]三浦哲郎

[評者]

[掲載]2012年02月19日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 三浦哲郎さんが亡くなって1年半。未刊の長編が読めるとは思わなかった。51〜53歳の円熟期に雑誌で連載した作品だ。中年の男が東北の故郷の山中でキノコ狩りをしていてトーチカの跡と出合い、記憶は中学生だった昭和18年へとさかのぼる。戦時下の重苦しい世相を背景に、年上の女学生に対する淡い思いが端正な文体で描かれている。満里亜(マリア)という名前が暗示するとおり、数奇な運命をもつ奔放で快活なその娘の造形はとりわけ魅力に富む。自伝的な記述も随所に出てくる。結末に少し唐突さを感じるが、著者の自筆年譜には「前編了」とある。この時期から体調が思わしくなかったためか、後編が書きつがれることはなかった。
    ◇
筑摩書房・2940円



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