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不妊を語る―19人のライフストーリー [著]白井千晶

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年04月01日

[ジャンル]医学・福祉

表紙画像

■望んでも子ができないつらさ

 書店で、買いづらい本がある。別に、妙な本でもないし、奇抜な書名でもない。むしろ、まじめな、と言っておかしければ、当たり前のタイトルなのである。
 本書が、それである。こういう本を求める人は、まず、不妊の悩みを抱えているか、その治療に踏みきるかどうか迷っている人、あるいは治療中の人だろう。自分が不妊であることを、人に知られたくない。書店でこの種の本をレジに差しだすことさえ、かなりの覚悟を必要とする。そんな馬鹿な、と笑うかたは、結婚して子どもが生まれるのは当然で、しあわせは子を持ち育てること、と疑わぬ人たちに違いない。望んでも子ができない者のつらさを、私たちはどこまでわかっているだろうか。
 政府は少子傾向を憂え、夫婦にハッパをかける。かけ声で物事が解決するなら、この世の仕組みは単純だ。本書をひらいてみるがよい。恥ずかしさや劣等感にさいなまれながら、確たる展望もなく、時間や金をかけて治療する人たちが、こんなにもいる。
 さいわいにも成功して授かれば、多胎だったりする。排卵誘発剤の使用や、体外受精は多胎妊娠の確率が高い。たとえば三つ子の場合、どんなに子を望む夫婦でも、あれこれ考えてしまう。母体や子の健康の問題、育児の負担、手の確保、経済上の心配、など「きつい」不安がいっぺんに襲ってくる。医師は「減数手術」の選択もありうる、とそれとなく教えてくれる。堕胎に当たるのではないか、母体保護法の人工妊娠中絶なのか、その辺があいまいである。「減数」したら、のちのち愛児を見るたび、決断の正否を問われそうな気がする。誰にも相談できない問題なのだ。
 戦時の「産めよ、殖やせよ」運動に限らぬ、懐胎出産はいつの時代も国策である。不妊を非難するまなざしは、国策で作られるのかも知れぬ。
    ◇
 海鳴社・2940円/しらい・ちあき 70年生まれ。日本学術振興会特別研究員。専門は家族社会学。

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