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老化の進化論―小さなメトセラが寿命観を変える [著]マイケル・R・ローズ

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年06月24日

[ジャンル]人文

表紙画像

■苦労人が説く「老いぬ秘訣」

 不老長寿を願わぬ者は、いないだろう。それを謳(うた)った書物が目につくわけだ。折しも世は、声高に「アンチエイジング」、へまをすれば理由は「加齢のせい」、つくづく年は取りたくない。
 そこで本書を読んでみた、という次第であります。何しろ著者は、ショウジョウバエの寿命をのばす実験に成功し、老化の要因を発見して注目された進化生物学者である。いかがわしい本ではない。
 人間の老化をコントロールし、できる限り遅らせよう、と考えている。そして著者は、アンチエイジング事業を起業しようとする野心家でもある。当然というべきか、学者仲間から反発される。
 それらの事どもを、軽い口調で語っている。老化の研究書だが、同時に著者の自伝でもある。エリートの身の上は、決して順風満帆ではない。
 一つ下の弟が、二十歳で自殺する。妻の義理の弟が、殺害される。その事件を扱った映画が、一九八三年度アカデミー賞の最優秀ドキュメンタリー賞を受賞する。テレビで映画の一場面が紹介された。殺された弟の車は、著者が新婚旅行で用いたものだった。妻とはうまく行かず、別居生活をしていた。まもなく妻は服毒自殺した。著者は猛烈に仕事に打ち込む。研究が、人生の逃げ場であった。更に二度結婚し、どちらも失敗に終わる。
 自分を語る著者の筆勢は、高ぶらず、ユーモアでさえある。一九五五年生まれとは、とても思えぬほど若々しい。
 老いぬ秘訣(ひけつ)は何か。ひと口に言うと、食と性の節制らしい。貝原益軒の養生訓、「接して洩(も)らさず」こそ真理のようである。ストレスも大いに老化の原因とか。その他いろいろある。ついでに記すと本書はまず最終章を読み、続いて第二章以降を読んでから、第一章を読むと、わかりやすい。
 人間百二十五歳説を唱えた大隈重信は、寿命は努力して得よと。この語、著者に捧げたい。
    ◇
熊井ひろ美訳、みすず書房・3150円/Michael R.Rose 55年、カナダ生まれ。米国カリフォルニア大学教授。

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