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小倉孝保「柔の恩人」書評 五輪「女子柔道」の立役者

評者: 出久根達郎 / 朝⽇新聞掲載:2012年07月08日
柔の恩人 「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界 著者:小倉 孝保 出版社:小学館 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784093897419
発売⽇:
サイズ: 20cm/238p

柔の恩人 [著]小倉孝保

 まもなくロンドン五輪が開幕する。中村美里ら期待される女子柔道だが、この種目が五輪に認められたのは新しい。一九九二年のバルセロナからである。ユダヤ系アメリカ人の女性ラスティの奮闘による。ラスティは非行少女時代に柔道を知り、その魅力にはまる。当時、柔道は男のスポーツであった。男を装って大会に出場し優勝したが、規則違反と、メダルを返上させられる。この屈辱は性差別だと発奮した。来日し、講道館で修行、技と共に精神を学ぶ。過激な柔道は女らしさがなくなる、レズビアンを助長する、等々の偏見を払拭(ふっしょく)すべく、女性のみの世界大会を開くことに、まず奔走する。
 なぜオリンピックに出られないのか。女は柔道着の下にTシャツを着けているから? それだけの違いではないか。ラスティの運動は認められる。かつて取り上げられたメダルが、改めて彼女に贈られた。50年前の物より少し重い、とコメント。小学館ノンフィクション大賞受賞作。
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小学館・1680円