「随筆 辞書を育てて」書評 「老書生」の確かなまなざし
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2012年08月05日
辞書を育てて 随筆
著者:水谷 静夫
出版社:岩波書店
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784000258456
発売⽇:
サイズ: 20cm/201p
随筆 辞書を育てて [著]水谷静夫
大正末年の東京・浅草に生まれた著者は『岩波国語辞典』の編者として知られる国語学者だ。幼時の思い出や辞書編集の裏話などをつづった随筆が50編。歴史的仮名遣いで書かれ、言葉の移ろいを見つめる「老書生」の確かなまなざしが感じられる。
著者の母親は、速度の遅いチンチン電車に、「走る」ではなく「歩く」という表現を使ったそうだ。どの国語辞書にものっていない「突っ掛け持ち」という言葉の紹介も興味深い。問題の当事者同士がみな他の人を当てにして、自分がすべきことをしない状態を表し、昭和初期の浅草では大人が使っていたという。福島原発事故の責任を誰もとらない今のような時代にこそ、この表現は重宝だろう。
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岩波書店・1890円