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随筆 辞書を育てて [著]水谷静夫

[評者]

[掲載]2012年08月05日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 大正末年の東京・浅草に生まれた著者は『岩波国語辞典』の編者として知られる国語学者だ。幼時の思い出や辞書編集の裏話などをつづった随筆が50編。歴史的仮名遣いで書かれ、言葉の移ろいを見つめる「老書生」の確かなまなざしが感じられる。
 著者の母親は、速度の遅いチンチン電車に、「走る」ではなく「歩く」という表現を使ったそうだ。どの国語辞書にものっていない「突っ掛け持ち」という言葉の紹介も興味深い。問題の当事者同士がみな他の人を当てにして、自分がすべきことをしない状態を表し、昭和初期の浅草では大人が使っていたという。福島原発事故の責任を誰もとらない今のような時代にこそ、この表現は重宝だろう。
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岩波書店・1890円

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