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世界の99%を貧困にする経済 [著]ジョセフ・E・スティグリッツ

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2012年09月09日

[ジャンル]経済

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■進む不平等の階層化 逆転難しく

 リーマン・ショックによる大量失業の惨状を尻目に、巨額のボーナスを手にしながら罪にも問われぬ銀行家たち。人々は大いに怒って、ウォール街に抗議行動に出た。それがやがて不平等を問う運動へと発展する。掲げられたスローガンが「我々は99%」だ。
 すっかり世界的な流行語になったこの標語の大本(おおもと)こそ、ノーベル経済学賞受賞者でもある著者の「1%の1%による1%のための政治」を批判した雑誌論文だ。
 米国の所得増はもっぱら1%層に偏っている。それが中流層を空洞化させ、極貧世帯の急増を招いている。だがこれまで、富裕層に集まる富が下層へしたたり落ちれば経済全体が潤う、という「おこぼれ効果」論が幅をきかせてきた。著者は「それは機能しない」と斬り捨てる。
 しかもこの不平等の階層化が進み、逆転も難しくなってきた。米国が「機会均等の国」といわれるのは、おとぎ話にすぎないともいう。
 米国では近年、市場さえ正しく機能すれば経済はうまくいく、という自由市場主義に席巻されてきた。著者のように、市場の限界を認め、「持てる者と持たざる者のギャップが狭まる社会」を理想に掲げる経済学者はまれだった。未曽有の経済危機はその傾向を一変させるかもしれない。
 本書では、共和党の大統領候補ロムニー氏や保守派らが主張する、緊縮財政、社会保障の縮小、富裕層減税の継続などに真っ向から反対している。耳を傾ける米国民は、以前より格段に多いはずだ。
 それでも著者は今後の米国政治を楽観していない。なにしろ4年前、オバマ政権の誕生にいったんは見いだした希望のともしびは、いまや「ゆらゆらと消えなずんでいる」。
 日本にも警告する。いまは米国より平等で公正な経済と社会がある。しかし、その過去の成功が今後も続くと当然視するな、というのだ。こちらもカギは「政治」である。
    ◇
楡井浩一ほか訳、徳間書店・1995円/Joseph E.Stiglitz 43年生まれ。米国コロンビア大学教授。

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