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満鉄特急「あじあ」の誕生―開発前夜から終焉までの全貌 [著]天野博之

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年09月09日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■憧れは富と力の象徴ゆえか

 昔、古書即売展に、あじあ号をかたどった鉄製の文鎮を出品したら、客が殺到して驚いたことがある。文鎮でなく、試験乗車した客にのみ配られた記念の紙切り小刀、と本書で知った。珍品だったのである。
 満鉄特急あじあ号の人気は、鉄道マニアに限らない。なぜだろうか。
 世界一といわれた流線形の高速旅客列車で、豪華な展望車やロシアの美少女が日本語で対応する食堂車、そして全列車に空調が備わっていた。
 大連と新京(現長春)の間およそ七百キロを、八時間半で走行した。定員制で、満鉄総裁といえども特急券を購入せねば乗車できなかった。昭和九年から十八年まで活動、満州国と共に終わった。著者の計算によれば、終生の乗客総数は、現在の東海道新幹線の一週間分の客数に満たない。有名な割には、実際に乗った人は多くない。人々の憧れだったのは、富と力の象徴ゆえか。意外にも、あじあ号の文献も少なく、本書は貴重な一冊である。車両側面図つき。
    ◇
原書房・2625円

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