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茂吉 幻の歌集「萬軍」―戦争と斎藤茂吉 [編著]秋葉四郎

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年10月14日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■戦争歌は「時が批判する」

 戦争末期、歌人の斎藤茂吉は、出版社の「決戦歌集」シリーズに応じて、自ら詠んだ戦争歌の中から、二百二十余首を選び浄書した。『萬軍(ばんぐん)』と命題し、原稿を送った。
 ところが程(ほど)なく終戦となり、これは「幻の歌集」となった。原稿は茂吉の高弟が預かった。ふしぎなことに、いつからか謄写刷りの『萬軍』が、古書店に出回り始めたのである。安い金額ではない。何者の手になるものか。全くわからない。やがて、同歌集は同じ書名で公刊された。
 本書は茂吉の自筆原稿と、二種の歌集及び茂吉全集収録の作の差異を検証したものである。歌の場合、一字違っても意味が変わってしまう。「敵」のルビも全集では「あた」だが、原稿は「てき」である。
 謄写本と公刊本に「あなあららけし」とある語は、原稿では「あなあきらけし」だ。
 本書には自筆原稿の写真版が載せられている。自分の戦争歌は「時が批判する」と茂吉は言った。字句の正誤の次は、内容の再検討だろう。
    ◇
岩波書店・2205円

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