呉智英『吉本隆明という「共同幻想」』書評 戦後論壇が青春してたころの狂騒感
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2013年01月27日
吉本隆明という「共同幻想」
著者:呉 智英
出版社:筑摩書房
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784480843005
発売⽇:
サイズ: 19cm/222p
吉本隆明という「共同幻想」 [著]呉智英
恥ずかしいことを思い出した。高校のころ後輩に「難しいけど」と吉本作品を薦めたなあ、ほとんど理解できなかったのに。著者も最初はそうで、先輩に偉そうにされないよう必死に諸作を読み込んだ。そして結論づけている。吉本は悪文家。しかも狙いなどなく「天然」だと。また吉本の「大衆はすばらしい」に理由の証明がないのは「吉本大衆神学」の「公理」だからと。
だが、著者のかみ砕いた“翻訳”のおかげで吉本のスター性も見えてきた。晩年展開した乱暴な学校論に「なんだか尾崎豊」とツッコまれているが、戦後論壇が青春してたころの変な狂騒感を背負うことで、吉本の晦渋(かいじゅう)な文体は詩のように輝いたのだろう。
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筑摩書房・1470円