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三田完「歌は季につれ」書評 口ずさめば心にほのかな明かり

評者: 三浦しをん / 朝⽇新聞掲載:2013年05月19日
歌は季につれ 著者:三田 完 出版社:幻戯書房 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784864880152
発売⽇:
サイズ: 20cm/221p

歌は季につれ [著]三田完

 著者の三田完氏は、作家であり俳人でもある。もともとはテレビの音楽番組を作っていたらしい。阿修羅像なみに多様な顔を持つ男……!
 よって、このエッセー集では、折々の出来事や風物から連想される歌謡曲と、それに呼応するような名句と、著者が見聞きしたり考えたりした事柄とを味わえる。一粒で三度おいしい。
 著者がともに仕事をした阿久悠や美空ひばりの姿。「雪の降る街を」や「渚(なぎさ)のはいから人魚」といった、人々に愛される歌にまつわる思い出。ちなみに、「渚のはいから人魚」に添えられるのは橋本薫の句、「流れ藻や涼しかるらん人魚の血」だ。しびれる。
 連載途中で東日本大震災が起きるが、著者の筆致は上擦らず荒ぶらない。俳句や歌謡曲といった、ひとの心から生じた「歌」はすべて、楽しいときもつらいときも私たちのそばにあり、口ずさめば心にほのかな明かりを灯(とも)してくれる。本書もまた、そういう「歌」のようなエッセー集だ。
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 幻戯書房・2310円