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世紀の名作はこうしてつくられた [著]エレン・F・ブラウン、ジョン・ワイリー2世 [訳]近江美佐

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2013年08月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■『風と共に来る』だったのかも

 五百七十四頁(ページ)を、一気に読了した。読んでいる最中も興奮したが、読み終わった今も同じくらい興奮している。
 本書は、『風と共に去りぬ』という名作の歴史を、根掘り葉掘り調べあげてつづったものである。面白いはずだ。これまで知られなかった事実を、次々に明かしている。
 マーガレット・ミッチェルという二十五歳の主婦が、足の古傷が悪化し外出がままならなくなったため、気晴らしに小説を書き始めた。題名は無い。南北戦争から戦後にかけ目まぐるしく変動する社会を背景に、美人で勝ち気なスカーレットの成長を描く。最終章から書き上げ、あとは気ままに、書きたいと思う章を執筆する。十年、かかった。
 彼女の親友が出版社の副編集長になった。完成したら拝読したい、と手紙をよこした。第一章のみ未完成だったが、ミッチェルは親友に原稿を託した。読者第一号のこの親友とやりとりした私信が発掘されたことが、本書の大きな魅力である。従来の研究書に無い、出版までの過程が克明に語られる。タイトルも一向に決まらない。「ラッパが悲しく響く」「この世ではないどこかで」など二十二もの案をミッチェルは出した。出版社は最初「風と共に来る」だったらしい。去りぬ、は著者の希望だった。初版は一万部。一千頁もあって定価三ドル。安くない。著者は無名。出版社にとって賭けである。
 大当たり。四週間で二十万部、六カ月で百万部に達した。
 本書の読みどころは、このあとの騒動である。外国で海賊版が発行される。ミッチェルは「わが子」を守るため、著作権闘争に挑む。映画化に際しても、細かく注文した。
 本書の著者二人は古書収集が趣味、ジョンは『風と共に去りぬ』関係の大コレクターである。グッズの写真が楽しい。初版本を模した文鎮の書名が「風と共に去らない」。
 ちなみにミッチェルは、交通事故で「千の風」になった。
    ◇
 一灯舎・3360円/ Ellen F.Brown 米国のフリーライター。John Wiley Jr. 米国の収集家。

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