書評・最新書評

薬と文学 病める感受性のゆくえ [著]千葉正昭

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2013年11月24日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■麻酔剤はねむりぐすりなのか

 たいていの小説に種々の薬が登場する。何気なく読みすごしているが、果たして薬の成分は何なのか。実際の薬効は文章の通りなのか。
 明治二十八年に発表された泉鏡花の「外科室」に、手術を受ける伯爵夫人が麻酔剤を拒否する場面がある。麻酔剤はうわごとを言うから怖い、自分には心に一つの秘密がある、それを知られたくない、という理由である。鏡花は麻酔剤に、ねむりぐすりとルビを振っている。眠り薬の認識だったのだろう。麻酔剤はクロロホルムかエーテルと考えられるが、うわごとを言うだろうか。著者は追究する。
 松本清張の「点と線」は昭和三十二年に発表された。前年に中野好夫が「もはや戦後ではない」と論文を書き、流行語になった。小説では殺人の手段に青酸カリが使われる。著者の調べによれば、この頃は工業界の生産高が飛躍的に発展し、青酸ソーダが大量に製造されている。青酸カリも同様と推測し、入手が容易と見る。薬で見る文学の裏側。
    ◇
 社会評論社・2310円

関連記事

ページトップへ戻る