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トップシークレット・アメリカ―最高機密に覆われる国家 [著]デイナ・プリースト&ウィリアム・アーキン

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2013年12月01日

[ジャンル]政治

表紙画像

■多すぎる機密がむしばむ民主制

 9・11以降、米国では国家安全保障の最高機密(トップシークレット)を扱う政府機関や企業が倍々ゲームのように増殖している。ピュリツァー賞を2度受賞した辣腕(らつわん)記者と、ベテラン軍事アナリストがタッグを組み、その実態に切り込んだのが本書だ。
 数百人の関係者への取材、百カ所以上の施設への視察、数十万件の文書や記録の収集など、2年半に及ぶ徹底した取材に舌を巻く。巷(ちまた)に溢(あふ)れる即席の扇情ルポとは明らかに次元を異にする。
 カーナビを遮断する「地図に出ていないアメリカ」の急増。軍産インテリジェンス複合体が集積する富裕地域の誕生。米国上空を飛行する無人機の増加。強まる全米各地の礼拝所への監視。CIAによる指名殺害の内幕……。「秘密への強迫観念的な依存」を深める現実が次々と活写され「ワシントン・ポスト」紙での連載時に掲載を見送られた情報も数多く開示されている。
 機密の緩和・解除は容易ではない。政治家にとって大きなリスクになるからだ。むしろ「念のため」という判断がさらなる機密を生み出す。自らの不正行為を隠すために機密指定されるケースも珍しくないという。
 テロリズムの最大の目的が恐怖心や不安感によって相手を萎縮させることにあるならば、実は、米社会は「テロとの戦い」に着実に敗北しつつあるのではないか。
 「あまりにたくさんの情報が機密にされたために、そうすることで守ろうとしたシステムをかえって動けなくしてしまっている」と著者は米民主制の行く末を案じる。
 それはもはや大統領個人の人格や力量を超えた、制度的な宿痾(しゅくあ)にすら思えてくる。ネットワーク化が進む今日、日本の未来予想図ではないとは言い切れない。
 ジャーナリズムの本道が、姑息(こそく)な世論誘導ではなく、調査報道に基づく権力監視にあることを再認識させてくれる出色の現代米国論だ。
    ◇
 玉置悟訳、草思社・2730円/Dana Priest ジャーナリスト。William M. Arkin 元アメリカ陸軍情報局分析官。

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