1. HOME
  2. 書評
  3. 「ロマ 生きている炎」書評 迫害を受け、生身で社会と格闘

「ロマ 生きている炎」書評 迫害を受け、生身で社会と格闘

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2014年05月18日
ロマ生きている炎 少数民族の暮らしと言語 著者:ロナルド・リー 出版社:彩流社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784779119958
発売⽇: 2014/03/19
サイズ: 19cm/397p

ロマ 生きている炎―少数民族の暮らしと言語 [著]ロナルド・リー

 「現在、日本などごく少数の国を除いて、ロマは世界中の国々に実在する。われわれの音楽や文化も理解されるようになった」

 と著者はこの日本語版への「はしがき」で書く。今やロマはそれぞれの国でその「主流社会に統合されつつある」というのだ。かつてジプシーと他称され、祖国を持たない民族との偏見も残っているとはいえ、1960年代、70年代よりは状況は改善されている。
 原書の初版は71年だが、ロマの一人としてどう生きたか、著者の自伝風の読み物である。カナダ社会にあってさまざまな迫害や蔑視を受け、ロマの人々は生身で社会と格闘する。盗み、売春、暴力があり、カナダ社会の変革を求める人権闘争がある。著者はその現実の中で、ロマ固有の文化、伝統、その誇りを、さらにその言語体系を辞典にすべく使命感を持ち続ける。
 「ロマがいるところには自由がある」とのロマの格言が、現実社会を裁断する刀との感がしてくる。
    ◇
 金子マーティン訳、彩流社・3024円