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エンジニアリングの真髄——なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのか [著]ヘンリー・ペトロスキー

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年06月01日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■科学と技術の違いを深く考察

 幼稚園のころ、レタスとキャベツの区別がつかなかった。間違えて笑われたことがある。分かっている人からしたら当然でも、そうでない人には違いがまったく分からない——。そういう存在、結構あるように思う。
 この本でテーマにしている科学と技術(エンジニアリング)も、その典型だ。実にしばしば混同され、同一視されている。しかし、両者はその根っこも中身もまったく異なるものである。
 科学は、自然の謎を解明する、「知る」活動だ。対するエンジニアリングは、何らかの問題を解決する営み。そのための便利な道具や解法を「作る」ことである。
 著者は、古今東西の興味深い事例に通じている技術史家。どちらかというと小ネタの開陳が得意な人だが、ここでは科学とエンジニアリングの違いについて、深みのある理論的な考察と分析を展開している。環境問題やエネルギー問題など、現代の難問を打破するためには、しばしば「科学的方法」が重要とされる。そうではない、大事なのは現実解を見つけるエンジニアリング的発想と方法である、と。
 しかし一方で、エンジニアが事前にすべての条件を予想できるわけではない。ある技術的成果を実装した後になって、はじめて欠点が明らかになる場合も多い。ときにはそれが、「気づいたときにはもう手がつけられないほど重大な問題を引き起こしていたりするのである」。福島原発事故を予見していたかのような一節(原著出版は二〇一〇年)。
 その他、科学は崇(あが)められ、エンジニアリングは格下と思われてばかりとか、基礎研究から応用研究と直線的に進むものではないなど、示唆に富む話題が詰まっている。
 翻訳は、正確で読みやすい。ただ、訳語として「工学」ではなく「エンジニアリング」を採用した理由は、訳者からの説明を聞きたかった。
    ◇
 安原和見訳、筑摩書房・3240円/Henry Petroski 42年生まれ。米デューク大学教授(土木工学・建築土木史)。


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