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戦後責任 アジアのまなざしに応えて [著]内海愛子・大沼保昭・田中宏・加藤陽子

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年08月10日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■戦争の「罪禍清算」の葛藤史

 「戦後責任」という語は、大沼保昭が1980年代から継続的に用いて定着したのだが、当の大沼によればこの語は50年代前半にキリスト者が、続いて武井昭夫と吉本隆明が文学者の戦争責任について論じる中で使われたという。宗教、文学を超えて市民運動の局面で定着したのは実践者たちの尽力による。
 一方で、軍事主導体制下(帝国主義、軍国主義)の罪禍の清算を、戦後社会で行うときの世代的責任を示す意味にも解釈できる。
 田中宏、内海愛子、大沼の1世代下の加藤陽子が巧みに話を聞きだすことで、本書ははからずも罪禍清算の戦後葛藤史になっている。論じられるのは東京裁判の欠落部分から国籍法、アジアに対する責任、サハリン残留問題、シベリア抑留、強制労働と実に幅広い。教壇に立つ一方、こうした問題に積極的に関わることで3人は戦後日本社会の矛盾点をも実感する。発言の一語一句がそれを示す。
 内海が指摘しているサンフランシスコ平和条約第11条(戦犯条項)の運用にあたっての朝鮮人、台湾人戦犯をめぐる泥縄式の法改正。田中はそれを受けて戦時に日本国籍であった朝鮮人、台湾人への一般的な補償を無視する司法の判断を「裁判所はそちらの国籍差別はかまわないと言う。いったいどうなっているのか」と無責任な姿勢を衝(つ)く。大沼も法の論理を下敷きに、こうした事実は「基本的人権の尊重を理念とする戦後の日本という国家が決してやってはならなかったこと」とその背徳性を問題にする。
 本書を繙(ひもと)きながら、改めて出入国管理法の改正、慰安婦問題などの内実を具体的に知ると、「俗人の思想」(大沼)に徹して問題と向き合うことの大切さに気づく。政治家、法曹人、企業家、言論人などの真摯(しんし)さの中に問題解決の鍵があり、「戦後70年」はそのことの確認が迫られているのではないか。
    ◇
 岩波書店・2808円/うつみ・あいこ、おおぬま・やすあき、たなか・ひろし、かとう・ようこ

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