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バンヴァードの阿房宮―世界を変えなかった十三人 [著]ポール・コリンズ

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2014年09月28日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■敗れ去ったひとなどいない

 本書は、「敗れ去ったひと」についてのノンフィクションだ。「地球空洞説の提唱者」「新放射線(N線)を発見した科学者」「『ロミオとジュリエット』の舞台で、斬新すぎるロミオを演じた役者」など、十三人の男女の人生が語られる。当時は注目の的だったのに、のちに誤りが発覚したり飽きられたりして、歴史の波に消えていってしまった人々だ。
 アメリカ人の著者によると、「忘れられた人々や事物」に関心を示す出版社を見つけるのが大変だったそうだ。恐るべし、サクセス・ストーリーの国。アメリカには「判官びいき」に類するような言葉はないのか? こんなにおもしろい本なのに!
 著者は、登場する十三人の社会的な「功績」(のちに評価が反転するわけだが)だけではなく、生い立ちなどの私的な面にも光を当てる。そのため、読者は十三人をとても身近に感じ、手に汗握って、あるいは切なく、かれらの運命を見守ることになる。
 私が特に好きだったのは、前述した十九世紀のロミオ役者、ロバート・コーツと、台湾人だと自称して十八世紀のロンドンを騒がせたジョージ・サルマナザールだ。コーツ氏の珍妙な舞台衣装と熱演ぶり(および観客の戸惑いと怒号)の描写は、腹の皮をよじれさせずに読むのが困難だ。見たかったよ、こんなすごすぎる『ロミオとジュリエット』! サルマナザール氏に至っては、数奇な人生すぎて、ここでは説明しきれない。彼は日本人を自称したこともあるのだが、実際はアジア人では全然なかった。
 本書に登場する人々は、ほとんどが失意と悲しみのうちに世を去り、死後の栄誉や称賛とも無縁だ。だが、著者の丹念な筆致は、大切な事実を浮き彫りにする。情熱を持って精一杯生きたひとのなかに、「敗れ去ったひと」など本当は一人もいないのだ、ということを。
     ◇
 山田和子訳、白水社・3888円/Paul Collins 69年米国生まれ。作家・編集者。『古書の聖地』『世紀の殺人』など。


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