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上野英信・萬人一人坑—筑豊のかたほとりから [著]河内美穂

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年10月19日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■庶民を記録した文筆家を追う

 ルポルタージュ作家、あるいは記録作家として、上野英信は幾つかの秀(すぐ)れた作品を残している。爆弾三勇士に関わる論説、ドキュメントは、昭和史の中に貴重な視点を示した。本書では、「歴史上の大きな事件である戦争も、庶民を通して記録されるべきだという主張が英信にはある」との見方が明かされるが、この主張こそ歴史を透視する力になりうるということだろう。
 上野は、関東大震災の1923年生まれ、「まったく、忌(いま)わしい年に生まれたものである」と作品の中に書く。社会運動が弾圧されて、治安維持法成立のきっかけになる年だったことを語っている。満州建国大学での学び、被爆体験、戦後は京大に、そして学業を離れて筑豊の一坑夫として労働現場に入っていく。その生き方の中に何が凝縮しているのか。著者はその一点を求めて多くの人に会い、身体を通して知識の実践を試みた文筆家の思いを追う。
 言論の原点確認のため、上野の作品が読まれる時だろう。
    ◇
 現代書館・2700円

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