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チューリングの妄想 [著]エドゥムンド・パス・ソルダン

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年10月19日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■魔術性盛り上げる祝祭的構成

 著者はボリビア出身の中堅作家。ラテンアメリカの文学といえば、魔術的リアリズムや祝祭的多声性が連想されるが、この作品はそれらの系譜を引きつつも、独自の世界を新しい感覚で展開する。
 語り手というか主人公というか、は七人。ボリビア政府暗号解読機関の窓際族、コードネーム「チューリング」を中心に、その家族、上司、反対派など、絶妙の距離感をもった顔ぶれだ。それぞれの視点からの物語が順番に入れ替わりつつ進行し、交錯する。まさに祝祭的な構成であり、暗号解読とインターネット・テロリズムという題材自体が、魔術性を盛り上げる。
 さぞや幻想的で夢の世界のように複雑かと思いきや、これが正反対。全体があたかもひとつの視点から語られる物語のように、一気(いっき)呵成(かせい)に読み通せる。多声性を満喫しつつ一本筋を通す構成力には、感嘆する。
 翻訳のすばらしさも、この成功に一役買っている。平明で、とても美しい日本語だ。
    ◇
 服部綾乃・石川隆介訳、現代企画室・3024円


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