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生そのものの政治学—二十一世紀の生物医学、権力、主体性 [著]ニコラス・ローズ

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2015年02月08日

[ジャンル]政治

表紙画像

■今日的な課題を検証し体系立てる

 1984年に亡くなったミシェル・フーコーによる「生政治(biopolitics)」という術語。それは、近代化以降の統治のあり方を示す重要な概念である。かつて政治権力は、人々を生かすか殺すかの厳しい選択を通して行使された。だが近代化以降、権力は人々の生の管理を要請し、人口規模と質、生殖と人間のセクシュアリティー、家族関係、健康と病気、誕生と死などの課題にとりくむ必要性に迫られてきた。この詳解や現代的意義について論じた言説は多いが、本書は今日的課題を果敢に検証し体系立てた点で、類書から一頭地を抜く。
 著者は21世紀の生政治の分析のため、「分子化」「最適化」「主体化」「専門知識」「生(バイオ)経済」の5系統からの分析を提唱する。今日、生物医学は生を「分子」レベルまで分解して理解し、バイオテクノロジーは「最適化」のため生物学的な有機体の概念そのものまでも変化させる。それは、病気治療のように問題に後付けで対処するのではなく、DNA解析に代表されるように、予見的に生命の未来を形成しなおすのである。それらは個々人の身体へと働きかける選択を通じ、「主体化」される。ダイエット、タトゥー、美容整形、性転換、さらには臓器移植に至るまで、今や身体と生命力は人間にとって「自己をもちいた実験をおこなう特権的な場所」となった。同時に安楽死やヒトクローンなど倫理学の俎上(そじょう)に載る事例も増えた。
 健康への視角は、政治家以上に医学の専門家たちによってもたらされている。各種療法士やカウンセラーなど新しい専門家たちは、より広範囲に生そのものへと介入していく。構造を下支えするのは、巨大資本による「生経済」だ。成長著しく、グローバルに展開する生命市場。批判はたやすい。だが私たちは、もはやこの渦中で自己の身体や生そのものを形成している……繰り返される主張に、新たな人間学の必要を思う。
    ◇
 檜垣立哉監訳、法政大学出版局・5616円/Nikolas Rose 47年生まれ。英国の社会学者。著書『魂を統治する』など。

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