書評・最新書評

社会主義―その成長と帰結 [著]ウィリアム・モリス、E・B・バックス

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2015年02月22日

[ジャンル]政治

表紙画像

■ロシア革命後、黙殺された思想

 ウィリアム・モリスは現在の日本では、特に室内装飾のデザインで知られている。私は大阪のデパートで展示を見たことがある。彼はまた、「ユートピアだより」を書いた、空想的社会主義者として知られている。事実、モリスはアーツ&クラフツ運動の指導者であり、また詩人であった。
 しかし、ほとんど知られていないのは、彼がイギリスで、マルクスの生存中に、最初期のマルクス主義者として活動したということである。モリスがマルクスについて知ったのは、20歳年少のバックスを通してであった。バックスは音楽を専攻するためにドイツに行ったが、マルクス主義者として帰国した。マルクスの三女エリノアとともに、彼らは1885年に社会主義同盟を結成した。また、彼らは本書を協同で書いた。
 興味深いことに、モリスは、日本では明治から大正にかけても高名であったが、もっぱら社会主義者としてであった。たとえば、幸徳秋水や山川均は、本書を社会主義に関する必読書として紹介している。では、なぜこのような逆転が生じたのか。一つには、ロシア革命以後に、ロシア的マルクス主義が圧倒的に強くなったからだ。モリスは、イギリスの現実にもとづいてマルクスが書いた『資本論』の認識を踏まえつつ、オーウェンやラスキンなどイギリスの多彩な社会主義の伝統を受けついで考えた。が、ロシア革命以後、そのような試みは黙殺された。その結果、モリスはたんに芸術家・詩人と見なされるようになったのである。
 とはいえ、どちらの面が重要か、と問うべきではない。それらは分離してはならないし、また、分離できないところに、モリスらの「社会主義」の神髄がある。1893年、すなわち日清戦争の前年に出版された本書は、現在、読みなおす価値のある古典である。
    ◇
 川端康雄監訳、晶文社・2484円/W.Morris 1834〜1896▽E.B.Bax 1854〜1926


関連記事

ページトップへ戻る