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武士の奉公—本音と建前 江戸時代の出世と処世術 [著]高野信治

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2015年03月08日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■現代に通じる悩み、生き生きと

 戦国時代、武士は合戦で名を挙げ、高い地位と豊かな収入を手にした。命がけのつらい奉公ではあったが、立身の機会はみなに開かれていたし、示された武功にはだれもが納得せざるを得なかった。
 ところが泰平の江戸時代、合戦はなくなった。一方で武士は、依然として武士のままであった。則(すなわ)ち建前として、武勲を立てることを目的とする「戦士」であり続けた。
 働きたくとも、仕事場はない。存在自体に矛盾をかかえた彼らは、いかにして働きがい・生きがいを見つけ、出世の欲望と向き合ったのか。
 鎌倉時代初め、上位の武士すら読み書きができなかった。だが、次第に成長した武士たちは、江戸時代には文字を操り、あれこれ考え、思案を巡らしていく。その様子は私たちそっくりである。
 世襲か能力か。人格重視か成果主義か。現代社会の難問は、そのまま彼らの悩みでもあった。本書はそれを、実に生き生きと描き出す。時の流れを体感できる一冊である。
    ◇
 吉川弘文館・1836円

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