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天上の虹—全23巻 [作]里中満智子

[評者]コミック

[掲載]2015年05月03日

表紙画像

■愛や苦悩、古代の人々と交感

 小学生のころから愛読しつづけてきた漫画『天上の虹』が、このたびめでたく、連載開始から三十年以上かけて、二十三巻で完結した。
 主人公は、飛鳥時代の女帝・持統天皇だ。天智天皇の娘であり、天武天皇の妻である彼女は、自身も天皇となり、中央集権体制を築きあげようと奮闘する。だが本作は、持統天皇を「英雄」や「単純な善人」としては描かない。彼女は愛に悩み、重い責任にあえぎ、ときに非情な判断を下しながら毅然(きぜん)と歩む、「人間」なのだ。
 古代日本の歴史が華やかかつドラマチックに展開し、多数の登場人物が織り成す愛憎や恋愛模様におおいに共感できる。私は友だちと何度、「登場人物でだれが好み?」と語りあったことだろう(ちなみに私は天智天皇だ)。
 古代の権力者は、ほとんどみんな血縁関係にあり、「政治=家族間抗争」でもあったのだなということも、本作を読むととてもよくわかる。歴史はどうしても、「公的な男性の視点」から語られがちだが、家族や恋人との関係が政治に影響を及ぼすこともあろうし、個人としての物思いや苦悩が政治的決断の陰には必ず存在するのだという視座を、私は本作から授かった。
 史実を大切にしつつ、作者が想像力を羽ばたかせ、物語と登場人物に生き生きとした命を吹きこんだ傑作だ。ラストで持統天皇は崩御するのだが、「亡くなった夫が迎えにくる」といった甘っちょろい展開は皆無。愛とはなにかを考えつくし、気高く生ききった一人の人間の死がそこにはあり、涙せずにはいられなかった。古代を生きた人々と交感できた気がした。繊細な心理描写とダイナミックな視覚表現を併せ持つ、優れた漫画のみが誘(いざな)える境地だ。
 完結を機に、より多くのかたに読んでいただきたいと願う。古代と現在は地続きなのだと実感できる、魅力的な登場人物たちに出会える。
    ◇
 講談社・第23巻は572円/さとなか・まちこ 48年生まれ。漫画家。『アリエスの乙女たち』『海のオーロラ』など。

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