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現代アメリカ連邦税制—付加価値税なき国家の租税構造 [著]関口智

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年05月03日

[ジャンル]社会

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■「強いドル」「小さな政府」の行方

 現代アメリカ税制研究の決定版ともいうべき本書は、クリントン政権以降の米国税制を理論的、歴史的、制度的に徹底解明し、その展望を与えてくれる刮目(かつもく)の書である。
 日本はかつてシャウプ勧告を受け入れ、米国税制をモデルとしたが、今やそれはOECD諸国中の例外的存在となっている。米国の対GDP比租税負担率は先進国で最も低い部類に属し、直接税依存度が高く、そして先進国で唯一、付加価値税(消費税)を導入していない。他の先進国は、増大する社会保障を賄うため、付加価値税依存をますます強めているというのに。
 著者は、これらを成り立たせる要因を、対外的な「準備通貨国の論理」と対内的な「国民統合の論理」がせめぎ合う過程として描き出す。つまり、アメリカは「準備通貨国」であるため、「強いドル」を維持することで国際的な資金還流を促し、民間消費や政府支出をファイナンスできる。このために公債発行が容易になり、付加価値税導入なしでも財政運営できるのだ。
 しかし、「強いドル」と「小さな政府」の組み合わせは、輸出産業に打撃を与え、福祉削減による格差拡大を生み出す。これらを財政拡張ではなく、減税政策の徹底利用で解決を図るのがアメリカである。国内製造業へは法人税減税を、個人の社会保障支出に対しては所得税減税を用意する。こうして民間の経済・福祉活動を活発化させ、政府は支出を増やさないのだ。
 だが著者は、こうした米国税制が曲がり角に来ていると考える。高齢化による支出増や、アメリカへの資本流入の持続可能性に懸念の高まってきたことで、米国内に連邦付加価値税導入を支持する意見が広がっていると指摘する。もし、アメリカが付加価値税導入に踏み切れば、それは著者の指摘するように歴史的転換である。これにより、直接税を中心とする20世紀型税制は、名実ともに終焉(しゅうえん)を迎える。
    ◇
 東京大学出版会・6912円/せきぐち・さとし 72年生まれ。立教大学教授(経済学)。

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