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ウィーン大学生フロイト 精神分析の始点 [著] 金関猛

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2015年05月17日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■不条理な心、合理的な分析貫く

 フロイトの精神分析は、しばしば胡散臭(うさんくさ)く非科学的とされる。だが本書は、ウィーン大学の学生時代にフロイトが何をどう学んだかを丹念に復元することにより、そのような見方が皮相的であることを明らかにする。彼は生理学の学徒として唯物論的実証主義の精神と手法をみっちりと叩(たた)き込まれ、終生変わらず、厳格な自然科学者だったのだ。
 一方で、人の心を物理化学に還元して解明することはまだできないため、心を科学的に扱う新しい手法が必要だと確信して、精神分析を開発したのである。
 つまりフロイトは、合理性と不条理の境界の上での綱渡りに成功した人なのだ。両方の必要性を喝破した洞察と、綱渡りを成功させる知的基礎体力は、学生時代の師や友との交流を通じて培われた。
 この本で描かれているのは、学生フロイトをめぐるウィーンの群像劇でもある。学問的厳密性と物語的面白さとの綱渡りに、著者もまた、成功している。
    ◇
 中公叢書・1944円

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