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いしいしんじ「悪声」書評 生命のように循環する物語

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2015年07月26日
悪声 著者:いしい しんじ 出版社:文藝春秋 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784163902883
発売⽇: 2015/06/20
サイズ: 20cm/434p

悪声 [著]いしいしんじ

 声や音、そして「うた」。意味を超え記憶を揺さぶる空気の振動を、著者は豊かな表現で言葉にする。読者をのみ込まんとするイメージの奔流。
 廃寺に繁茂するコケの上に置かれた赤ん坊「なにか」。泣き声を聞いた人は、精緻(せいち)に彫られた角笛の響きや渓谷を吹く烈風を思い起こした。同時に、総毛立つ感覚も抱き、彼の特異な声を「オニ」のそれと呼んだ。「なにか」には音や声の風景が見える特殊な感性があった。やがて彼は、すべての音をメロディーの一部として聞き取る特別な耳をもつ少女「あお」と出会い……。
 「うた」はこの星を包み込み、世界を整えていく。始まりも終わりもない、生命のように循環する物語。
    ◇
 文芸春秋・1944円