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死者の花嫁―葬送と追想の列島史 [著]佐藤弘夫

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2015年10月11日

[ジャンル]人文

表紙画像

■死生観は時代や社会で変化する

 墓参りの際、私の内心に去来する思いを強いて言語化すると、「お元気ですか(相手は死んでいるのに妙だが)。我々はなんとかやっています。見守っていてください」となる。眼前にあるのは直方体の石なのに、そこが死者の住居かのように、死者が身近に漂っているかのように、私は認識している。日本に住む多くのひとが、死者や墓に対して同じような感覚と認識を抱き、「これが日本の伝統的な死生観だ」と考えているのではないだろうか。
 ところが、「伝統的な死生観」ではないことが、本書を読むとわかる。墓にだれが埋葬されているのかが明確化し、「死者は身近に留(とど)まる」と人々が認識するようになったのは近世以降のことで、中世のひとは遺骨あるいは遺体を霊場や共同墓地に運んだら、あとはそれまで(むろん、故人を懐かしく思い起こすことはあったにちがいないが)。死者はどこかにある理想世界(極楽浄土)に行くべきで、いつまでも身辺に留まる死者がいたとしたら、それは「まだ救済が確定していない、哀れむべき人々」だと考えられていたのだそうだ。
 著者は文献の分析や現地調査を通し、中世から近世にかけて、死生観や宗教観に一大変化が生じたことを明らかにする。つまり、常識・伝統だとされる供養のしかたや死者への認識と距離感は、時代や社会によって変化するものだったのだ。
 著者の筆致は穏やかでうつくしく、人間味と深い思考に裏打ちされた目から鱗(うろこ)の研究成果が、素人にものみこみやすく伝わってくる。散骨や樹木葬を希望するひとが増え、死生観が何度目かの変化の局面を迎えているいま、本書を読むことができてよかった。墓や葬送儀礼の変転を知り、死と死者について考えることは、自分がいかに生き、他者とかかわり、どのような社会を築いていきたいのかを考えるのと等しい。
    ◇
 幻戯書房・2592円/さとう・ひろお 53年生まれ。東北大学大学院文学研究科教授(日本思想史)。



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