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ルポ風営法改正—踊れる国のつくりかた [著]神庭亮介

[評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)

[掲載]2015年11月15日

[ジャンル]社会

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■ダンスはけっして滅びない

 長年ダンス営業を規制してきた風俗営業法は戦後、売春や賭博など「風紀の乱れ」を正すためにできた。その改正法が今年6月に参院本会議で可決成立、条文から「ダンス」という文言が削除された。
 それまで、客にダンスをさせるのは「風俗営業」で許可が必要だった。条件は床面積66平方メートル以上。厳格にいえば、ちいさなレストランで銀婚式カップルがチャチャチャを披露しただけで、アウト。認可団体の指導者がいないダンス教室もだめ。ただ実際の運用は比較的緩やかだった。
 ところが2010年以降、なぜかこの法によるダンスクラブの摘発が全国で相つぐ。規制は高齢者の社交ダンスやタンゴにまで及ぶ。男女ペアで踊るダンスは「享楽的雰囲気が過度にわたる可能性」があるとか。アルゼンチン大使館での説明会では怒りの声があがったという。
 大阪の元クラブ経営者が裁判を起こす。身体を揺するのはダンスか、うどん踏みならいいのか、なんて冗談みたいな議論が続出。SNSでの情報拡散や署名活動に加え、多くの法律関係者が関わり、メディアや議員を動かして、勝訴、法改正へと道を開く。
 摘発を歓迎した地元住民が求めたのは騒音や違法行為の解消改善で、ダンス撲滅ではないし、ましてや街の不活性化ではなかった。他方、規制強化の原因には、行政に過剰依存する「新住民」の出現があるのでは、と宮台真司を引用して著者はいう。「引き受けて考える作法」を捨て、リスクは行政が排除すべきだと「任せて文句垂れる作法」が横行する社会は、不愉快で危うい。真の意味での常識を圧殺する硬直化したルールは、無意味に緊迫した「空気に縛られる」人間関係を生む。
 問題含みとはいえ、法は改正された。そのことを著者は評価する。ダンスを規制する為政者は倒れる。ダンスは、けっして滅びないから。これは比較文化史的事実なのだ。
    ◇
 河出書房新社・1944円/かんば・りょうすけ 83年生まれ。朝日新聞記者。音楽や放送を担当、現デジタル編集部。

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