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「中国と日本―批判の刃を己に」書評 熱狂的な民族主義は「毒薬」

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2015年12月20日
中国と日本 批判の刃を己に 著者:張 承志 出版社:亜紀書房 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784750514598
発売⽇:
サイズ: 20cm/415p

中国と日本―批判の刃を己に [著]張承志

 中国語圏で広く読まれている日本人論。著者は北京に住む著名な作家で、かつては日本に滞在し、研究生活も体験している。
 日本への関心の深さとその分析が、正鵠(せいこく)を射ていて、日本人も自省を促される。論じる内容は実に幅広く、赤穂浪士から大川周明、そして歌手の岡林信康まで、さらに長崎という街を通じての原爆論、福沢諭吉を引いての入欧論からアジア主義、リッダ空港銃撃の3人の赤軍兵士と、日本史の中を縦横に目配りする。
 日本人とはどのような国民性を持っているかをあくことなく探り続ける。
 それはとりもなおさず中国自身を見つめることになるというのだ。冷静な筆調に加えて、文学者の視点が随所にあり、この種の書としては説得力をもっている。著者が達した結論は、日本の物語から中国人が学ぶべきは、「熱狂的でかつ利己的な民族主義が、もっとも恐ろしい毒薬」ということ。日中双方がじっくりかみしめたい表現である。
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 梅村坦監訳、亜紀書房・2592円