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「洛陽堂 河本亀之助小伝」書評 裏方に徹し才能ある人物を世に

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2016年01月31日
洛陽堂河本亀之助小伝 損をしてでも良書を出す・ある出版人の生涯 著者:田中 英夫 出版社:燃焼社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784889781175
発売⽇:
サイズ: 20cm/636,10p

洛陽堂 河本亀之助小伝―損をしてでも良書を出す・ある出版人の生涯 [著]田中英夫

 明治42年に出版社洛陽堂を興した河本亀之助の人物像とその業績を克明に辿(たど)った書。
 河本は故郷・広島県で小学校の助教を務め、キリスト教への関心を深めたあと数え25歳で上京、印刷会社に入る。その出版部で明治35年に宮崎滔天(とうてん)の『三十三年之夢』、安田直の『西郷従道』などを刊行、さらに平民社の「平民新聞」の印刷を行う。官憲の出版への干渉、弾圧を肌で知る。
 その後、洛陽堂を興すのだが、才能ある人物を世に送りだす、を信条に出版活動を続けた。竹久夢二の画集などが初仕事だが、その後は武者小路実篤らの「白樺(しらかば)」、恩地孝四郎を助けての「月映」の刊行など採算を度外視して援助を続ける。自らは裏方に徹して出版文化の確立を目ざす。とはいえ経営のいきづまり、執筆者との軋轢(あつれき)、その道は決して平坦(へいたん)ではなかった。
 著者はこの出版人の情熱に打たれ、細部まで調べあげて大部の書にまとめた。巻末の年次刊行リストは出版史とも重なる貴重な資料だ。
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 燃焼社・3456円