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アメリカの真の支配者―コーク一族 [著]ダニエル・シュルマン

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年02月07日

[ジャンル]政治 社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■富豪兄弟、大統領選にも存在感

 「コーク兄弟」の名を知ったのは、アメリカで気候変動対策としての「排出量取引制度」導入が挫折した背景に、彼らの巨大な影響力があったと知った時だ。兄弟は、父から引き継いだ事業を巨大ビジネス帝国に育てた。アメリカの非上場企業で、カーギルに次ぐ第2位の規模、彼ら自身も世界で第6位の大富豪だ。しかしこれだけなら、本書が書かれることはなかった。
 彼らの存在を際立たせているのは、豊富な資金にもとづくアメリカ政治への深い浸透だ。ティーパーティー運動の急速な台頭、債務上限引き上げへの徹底した抵抗、共和党内で生じている深刻な路線対立、すべてコーク兄弟の存在なしには理解不能だ。いったい彼らは何者か、それを解明するのが本書の目的である。
 父から受け継いだ反共産主義に基づき、「自由の敵」である政府の膨張を阻止しつつ、市場に基づく徹底した自由主義社会を実現するのが、彼らの目標だ。とはいえ、彼らは狂信的ではない。次男で、会社の実質的支配者のチャールズは、寸暇を惜しむ大変な読書家であり、ハイエクやミーゼスといったオーストリア学派経済学に造詣(ぞうけい)が深い。
 彼らは、きわめて戦略的だ。大学を支援して自由市場経済の理論を「製造」し、シンクタンクを通じて、生み出されたアイデアを、現実の問題を解決できる知見に鋳なおして、理論を「梱包(こんぽう)」する。そして「マーケティング」により、その実現のための運動体を組織し、政治家に働きかける。
 これが奏功して共和党内で大きな発言力を獲得した兄弟は、「建国以来最も急進的な」オバマ政権に危機感を覚え、2012年大統領選で、総力を挙げた「全面戦争」に突入する。敗れたチャールズだが、年頭にフォックス・ニュースのインタビューに登場し、相変わらず頭脳明晰(めいせき)、意気軒高な姿を見せていた。今年は大統領選挙の年。彼らにとっても死闘の季節が再び訪れる。
    ◇
 古村治彦訳、講談社・3456円/Daniel Schulman 米国誌「マザー・ジョーンズ」調査報道部の創立メンバー。


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