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グッド・フライト、グッド・ナイト [著]マーク・ヴァンホーナッカー

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2016年03月27日

[ジャンル]人文

表紙画像

■非日常の空間、淡く美しき世界

 飛行機に乗る前は、いつもちょっとわくわくする。非日常的な空間に浸る楽しみが待っているからだ。
 ぼくはこんな月並みで無粋な表現しかできないが、747のパイロットである著者は五感をフルに活用して、空の旅にまつわるあれこれを繊細で美しいエッセーに仕立て上げてくれた。夜の町の光のうつろい。気温と機体の温度。行く先々のにおい。雲や霧や太陽。風の肌触り。
 横糸には全体のパターンを広く把握する想像力。縦糸には記憶の物語。これらを絶妙な手つきで絡ませながら、非日常空間の物語が、美しく、淡く、綴(つづ)られていく。翻訳が、またすばらしい。
 機械を語るときも冷たくならず、人間を語るときもべたべたしない。近すぎず、よそよそしすぎず。暖かく適度な距離感が保たれる。
 機上で読むのがベストだろうが、地上で読んでも、1ページごとに自分の想像力が澄んでいくのがよくわかる。そして、飛行機に乗りたくなる。
    ◇
 岡本由香子訳、早川書房・1944円

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