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内子座―地域が支える町の劇場の100年 [編著]『内子座』編集委員会

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2016年05月08日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 社会

表紙画像

■自治で生んだ宝、自治育む場に

 愛媛県の内子町(うちこちょう)民による、町の共有資産に対する愛情に溢(あふ)れた一冊だ。内子座は大正時代に創建された和風様式の劇場である。内子町は幕末から明治にかけて高質な木蝋(もくろう)(和風ろうそく)生産で国際的名声を博し、繁栄を謳歌(おうか)した。その富を背景に建設されたのが内子座だ。興味深いのは、当初からこの劇場が町民出資の「株式会社」を通じ、町民主導で運営された点だ。
 しかし戦後は衰退を始め、1967年から商工会事務所として使用された後に、取り壊しの危機に直面する。町は、代替的な事務所提供と引き換えにこれを譲り受け、復原工事の上、1985年に新生内子座をスタートさせた。
 戦後、全国で幾多の芝居小屋が姿を消す中、内子町が即断即決できた背景には、全国的に有名になった町内の八日市・護国地区の町並み保存運動がある。内子座の価値を認識する町にとって、保存以外の選択肢はなかった。もう1点、町の判断で注目すべきは、当初から内子座を「生きた劇場」として活用するために修復作業を行った点だ。この結果、内子座は伝統芸能から現代劇まで良質な芸能を町民が楽しむと同時に、彼ら自身の表現の場としても活発に使われている。
 町民の側にも、住民主体の興行組織や劇団が生まれた。しかし、自主興行組織は収益性で多大なリスクを負うため、現在は主導権が町主導の「実行委員会」へ移った。これは一定の成果を収めたが、他方で住民自治による内子座運営の契機が失われたと本書で繰り返し指摘されている。建物の保存、劇場としての運営、その財源確保、そして住民自治による劇場運営、これらをどう同時達成するかは、全国に共通する課題だろう。
 結局は、町が黒衣役に徹しつつ、内子座を住民の自治力涵養(かんよう)の場として機能するよう運用する他ないと思われる。これは、町並み保存を通じて住民参加を促してきた内子町のまちづくり手法への原点回帰でもある。
    ◇
 地元の呉服店主や版画家、町職員、編集者らで構成。委員長はアートNPOカコアの徳永高志代表。

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