折原一「死仮面」書評 迷宮さまよう不安と恐怖
評者: 末國善己
/ 朝⽇新聞掲載:2016年05月15日
死仮面
著者:折原一
出版社:文藝春秋
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784163903934
発売⽇: 2016/04/16
サイズ: 20cm/351p
死仮面 [著]折原一
折原一の新作は、現実と作中作が同時並行で進む複雑な構成の物語である。
秋月雅代は、急死した内縁の夫の境遇が、秘密に包まれていたと知る。夫が何者かを調べ始めた雅代は、遺品の小説を読み始める。
小説には、同級生が、少年連続失踪事件の犯人らしき仮面の男に拉致されたと考えた中学3年の僕が、男の暮らす洋館に乗り込んでいく物語が書かれていた。
ストーカーになった前夫に追われながら、亡夫の過去を追う雅代のパートと、洋館に不気味なコレクションを並べた仮面の男と対決するゴシック小説を思わせる僕のパートは、いずれもサスペンスに満ちている。
やがて小説の舞台を訪ねた雅代は洋館を発見。さらに僕の父が書いた小説に雅代が登場し、どちらが作中作か分からなくなるのだ。
二つのパートがどのようにリンクするかが最後まで見えてこないだけに、読者は迷宮の中をさまよっているかのような不安と恐怖を味わうことができるだろう。