「沖縄戦と孤児院」書評 「戦争被害」の裾野の広さに愕然
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2016年06月05日
沖縄戦と孤児院 戦場の子どもたち
著者:浅井 春夫
出版社:吉川弘文館
ジャンル:社会・時事・政治・行政
ISBN: 9784642082921
発売⽇: 2016/03/17
サイズ: 21cm/182p
沖縄戦と孤児院―戦場の子どもたち [著]浅井春夫
戦争孤児の実態について、とくに沖縄戦における内実はほとんど検証されていない。著者はその空白の領域に挑んだ。
もともと沖縄には孤児院や養老院は存在していなかった。共同体での扶助の精神があったからだろう。それが戦争によって崩壊していく。沖縄本島への米軍上陸(4月1日)と同時につくられた収容所、そこには孤児だけの施設もできる。本書によると13カ所が確認されている。瓦ぶきの立派な建物を利用したコザ孤児院では、沖縄戦終結後に600人余の孤児が収容されていたとの説もある。
こうした施設では、米軍将兵の協力、日本人院長、教育者や慰安婦たちの孤児を見つめる目が支えだった。しかし両親を失った孤児たちが残飯をあさり、収容所に入っても多くの差別を受けた話など「戦争被害」の裾野の広さに愕然(がくぜん)とする。沖縄の孤児院研究のために「歴史の事実を銘記し共有」すべきだとの提言に納得する。