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あたらしい名前 [著]ノヴァイオレット・ブラワヨ

[評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)

[掲載]2016年09月25日

[ジャンル]文芸 社会

表紙画像

■世界中の矛盾に向かう子どもら

 国盗(と)りゲームで子どもたちが陣地につける国名は、勝敗には関係ない。でも主人公のダーリンと、友達のチポやバスタードらには、人気の国と不人気の国がある。アメリカは最高。自国ジンバブエは最低。彼らが住む貧乏地区の名は、パラダイス。金持ちが住む地区はブダペスト。中国人が急ピッチで工事している地区はシャンハイ。グローバル化はここではいいも悪いもない、事故みたいなものだ。
 飢餓と暴力に絶望する大人たちの横で、子どもも、ときには悲しみに沈む。でも打ちのめされはしない。パラダイスの子どもたちの好奇心と生存意欲は圧倒的だ。それは多分、腹が減ってるからだ! グァバを盗み、自殺者の靴を奪いパンに替え、贈り物ほしさにNGOに妥協し、ここではないどこかに、未来に、希望をかける。
 植民地支配、独立後の内紛、政権腐敗といった大人の事情の全部は子どもにはわからない。だが彼らはよく見ている。突然ブルドーザーが家を潰し、医者も教師も姿を消し、暴徒が改革派の青年を惨殺するのを。ぎょっとするようなごっこ遊びは、こんな現実への彼らの率直な反応だ。
 後半、ダーリンは叔母を頼ってアメリカに渡る。だがそこは夢にみた「あたしのアメリカ」ではない。アメリカにも貧困と暴力があることを彼女は知る。故郷の親族からは、いい思いをしてるんだろうと仕送りを求める電話がくる。
 故郷のチポを気の毒がる彼女にチポは「痛みの感触を知ってるのは、その傷口だけ」、外からはわからない、という。ダーリンや叔母さんはしかし、外の人なのか。出稼ぎ労働者の仕送りで本国経済が維持されている、そういう国が世界には数多くある。故郷のために働く移民が国と世界の下ざさえをしている。
 世界中の矛盾が漂着する岸辺で生きていく、その複雑さはそのままに、語り口は明快で鮮烈。子どもの目がそれを可能にしている。
    ◇
 NoViolet Bulawayo 81年ジンバブエ生まれ。米コーネル大学で創作の修士号。本書はブッカー賞最終候補。

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