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マルセル・デュシャンとアメリカ―戦後アメリカ美術の進展とデュシャン受容の変遷 [著]平芳幸浩

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2016年09月25日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■読み解き揺さぶり美術を刺激

 1917年、男性用小便器を展覧会に出品し、スキャンダルを巻き起こしたマルセル・デュシャンは芸術の概念を根本から変えてしまった。が、本書はいわゆる伝記的な作家論ではなく、彼の作品そのものの分析でもない。20世紀のアートを先導したアメリカの現代美術が、いかに彼を読み解き、次々に登場する新しいイズムの祖に位置づけたか、その受容の言説の変遷を論じたものである。
 例えば、1930〜40年代はキュビスムやシュルレアリスムの画家として解釈され、50年代にネオ・ダダが登場すると、既製品をアート作品とみなすレディメイドが重視されるようになった。60年代は、芸術とは生活であるとするフルクサスの活動や、通俗性に注目したポップアートも、デュシャンとの接続を試みた。そしてコンセプチュアルアートも彼を概念芸術の始まりとして議論を展開した。
 すなわち、ポジション取りを争う前衛芸術が、様々な方法でデュシャンを取り込もうとした。また芸術とは何かという境界条件も議論されるなかで、彼は芸術の「画家」と反芸術の「ダダ」に引き裂かれる。そして死後に発表された彼の遺作が、旧来の芸術らしさをもち、神話化されたデュシャン像を裏切るようなちゃぶ台返しを投げかけたという考察も刺激的だ。
 ともあれ、アメリカの美術批評や企画展が、作品創造の場と絡みあいながら、豊かな表現と思想の基盤を形成したことがよくわかる。ゆえに本書を読むと、デュシャンを軸に、抽象表現主義の絵画とその理論を含むアメリカ現代美術の動向を整理して理解できるだろう。
 元学芸員の著者は、2004年に「マルセル・デュシャンと20世紀美術」展を企画し、この展示の第2部でデュシャンに触発された多くの美術家を紹介した。本書はその理論編と言えるかもしれない。そしてデュシャンは今なお多くのアーティストを魅了している。
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 ひらよし・ゆきひろ 67年生まれ。京都工芸繊維大学美術工芸資料館准教授。共著に『西洋近代の都市と芸術3 パリ2』。

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