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炭坑の絵師―山本作兵衛 [著]宮田昭

[評者]立野純二(本社論説主幹代理)

[掲載]2016年09月25日

[ジャンル]人文

表紙画像

 国内最大の産炭地だった筑豊は、炭坑(ヤマ)の文化のふるさとである。
 過酷な労働と圧制の中にあっても、人情が紡ぐ無数の哀楽の物語があった。
 山本作兵衛は、自らヤマの男として生涯を生き、65歳から主に明治・大正の炭坑を墨と水彩で描いた。
 本書は、筑豊炭田の盛衰と共に歩んだ人生をたどりつつ、数々の記録画が語る風土と伝承をひもとく。
 男女が地底で働いた採炭場。喧嘩(けんか)にはやる男衆に、三味線で踊る女衆。日本の近代化を支えた往時の炭坑街の活気がよみがえる。
 その作品群が日本初の世界記憶遺産に登録されたのは2011年。官製資料にはない生の産業史が、1人の労働者の手で後世に遺(のこ)された価値が高く評された。
 名もなき人びとの生きた証しを記録に残す。作兵衛の魂は、生前の取材記者だった著者の本懐でもある。
 全編に響くゴットン節には郷愁と哀感がこもり、2人があおるコップ酒の匂いまでが立ちのぼるようだ。

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