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室町無頼 [著]垣根涼介

[評者]末國善己(文芸評論家)

[掲載]2016年11月27日

[ジャンル]歴史 文芸

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■常識を疑う力、閉塞感打ち破る

 垣根涼介の2作目の歴史小説は、寛正の土一揆をクライマックスにしている。そのため、南米移民が、自分たちを切り捨てた日本政府に復讐(ふくしゅう)する著者の代表作『ワイルド・ソウル』を思わせる迫力がある。
 牢人の子として京近郊の村で極貧生活を送っていた才蔵は、15歳で天涯孤独となり京に出た。自己流で棒術の鍛錬をしていた才蔵は、腕を見込まれ土倉(金貸し)の用心棒になる。
 その土倉を、京の治安維持を任されているが、実際は悪党の骨皮道賢が襲う。道賢は最後まで戦った才蔵を気に入り、借金に苦しむ農民の相談役をしている蓮田兵衛に引き合わせる。
 ここから才蔵の運命は大きく動き出し、兵衛に棒術の老師匠を紹介され、油断すれば死ぬ危険もある過酷な修行を始める。すべてを失った若者が、武術の修行を通して成長する展開は、吉川英治の『宮本武蔵』に似て青春小説色が強い。ただ吉川の描く武蔵が、出世や名誉を求めず心を磨こうとしたのに対し、才蔵は厳しい現実を生き抜く知恵を身につけていくので、より共感できるのではないか。
 才蔵たちが生きた室町中期は、貨幣経済が発達し、金融業に進出する富裕層が増えていた。一方、天候不順が続き、借金で年貢を払っている農民の生活は困窮していたが、富裕層の税に頼っている幕府は、農民など眼中になかったのだ。
 経済構造の変化が格差を広げ、それに政府が何の手も打たない状況は、驚くほど現代に似ている。それだけに、世を変えるために捨て石になる覚悟で立ち上がる兵衛と、その命に従う才蔵が、不満をため込んでいた農民を糾合し、幕府に闘いを挑む終盤は痛快で、快哉を叫びたくなるだろう。
 才蔵は、法や倫理など気にもとめない道賢と兵衛から、常識を疑う力、時流に抗(あらが)う勇気、自分で考えることの重要性を学ぶ。ここには、無頼の発想こそが、閉塞(へいそく)感を打ち破るパワーになるとのメッセージがある。
    ◇
 かきね・りょうすけ 66年生まれ。作家。『君たちに明日はない』(山本周五郎賞)、『光秀の定理』。

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