住友銀行秘史 [著]國重惇史

[評者]市田隆(本社編集委員)  [掲載]2016年12月04日   [ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝 

表紙画像 著者:國重 惇史  出版社:講談社

■企業内部の病巣、徹底的に解剖

 「戦後最大の経済事件と呼ばれたイトマン事件」と言われても、事件摘発から20年以上たった今ではピンと来ない人も多いだろう。しかし、それを知らずに本書を読んだとしても、大阪の中堅商社旧イトマンから数千億円ともいわれるバブルマネーが裏社会に流れこんだ問題をめぐり、メインバンクの旧住友銀行(現三井住友銀行)の幹部たちが繰り広げた暗闘劇に思わず息をのんでしまうのではないか。手記は実名中心で、「秘史」の名にふさわしい迫真性に満ちている。
 著者は当時の住銀幹部。イトマンが絵画取引やゴルフ場開発などの名目で流出させた住銀資金が「闇の勢力に喰(く)い物にされようとしている」と危機感を強め、旧大蔵省にイトマン社員を装った内部告発文を送りつけていたことを初めて明らかにした。1990年3月から、大阪地検特捜部が摘発に乗り出した91年7月まで、自分の手帳に日々の動きを書き続けたメモがこの手記の柱となっている。
 手記の中で裏社会に資金を流出させたバブル紳士たちはあくまで脇役にとどまり、現在の企業社会にも通じる銀行組織の病巣を正面に見据えた。その徹底的な解剖ぶりは特筆に値する。
 住銀内部では90年当時からイトマンの問題性に気づいて対応を検討するも、問題の先送りを図ろうとする役員が多く、自らの保身に腐心する。行内で「天皇」と呼ばれた実力者の磯田一郎会長も、住銀役員出身の河村良彦・イトマン社長も最終的に辞任と解任に追い込まれるが、その地位に固執し続けた。日本を代表する銀行で出世を遂げた人々の小心ぶりが赤裸々に語られ、哀切感さえ漂う。
 イトマン問題の「病巣を表にさらす」と意気込む著者は、新聞記者と組んだ報道で火をつけ、行内の同調派も増やした。その高揚感はやがて問題根絶にはほど遠いとの「無力感」に変わっていく。その姿に金融破綻(はたん)の泥沼に突入するその後の時代の予兆を感じた。
    ◇
 くにしげ・あつし 45年生まれ。元住友銀行取締役。楽天副会長などを経て、リミックスポイント社長。

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