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夢みる教養―文系女性のための知的生き方史 [著]小平麻衣子

[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

[掲載]2016年12月04日

[ジャンル]人文 社会

表紙画像

■教養を強要し、職業は許容せず

 教養って何だろう。知識があるってこと? 知性的だってこと? じゃあ就職試験の一般教養って何?
 『夢みる教養』は、この謎に満ちた「教養」の変遷を女性文化とからめて論じた刺激的な文化論だ。
 「教養」とは〈古今東西の文学・宗教・哲学などの幅広い読書を通じて〉〈自己の人格を高めていくこと〉をいうが、日本では旧制高校を中心とした(男子の)エリート主義を介して「人格主義」と結びついた、と著者。〈上の学校へ行くことは、功利を超えて、人間として立派になること〉だったのである。
 だが、教養はその後、歴史の波にもまれることになる。マルクス主義などの社会科学が台頭してくると、人文的な知のステータスは相対的に下がり、〈稼がなくてもよい女性向きの学問のようなイメージ〉を帯びることにもなった。
 ただし、戦前の女性にとっての教養は意外にも職業と直結していたのだそう。一例が『少女の友』のお姉さん誌『新女苑』(1937年創刊)である。
 「教養」を雑誌の方針として打ち出しつつ、『新女苑』は女性のキャリア志向をバックアップした。芸術家、秘書、科学者、弁護士などの専門職を紹介し、女子教育の最先端だった専門学校への進学を勧め、〈女性の文化的上昇のルートを描いて見せた〉。
 ところが、このような教養の職業化は男性には不評で、川端康成などが繰り返し苦言を呈している。太宰治『女生徒』とその下敷きになった有明淑(しづ)の日記を比較したくだりがおもしろい。『女生徒』の語り手である主人公は今でいう「不思議ちゃん」だが、日記から浮かび上がる淑の実像ははるかに社会性が高い。
 多少駆け足なのが残念だが、戦後の女子の文学部人気やカルチャーセンターの興隆までを視野に入れた一冊。女子に教養を強要しつつ、職業への意欲は許容しない教養主義。思い当たる節多々あり、である。
    ◇
 おだいら・まいこ 68年生まれ。慶応大学教授(日本近代文学)。著書に『女が女を演じる——文学・欲望・消費』。

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